韓流アイドルと「オバサン」

韓流アイドル「超新星」や「東方神起」「JYJ」のライブイベントに参加すると、多くの中高年女性の姿を見つけることができます。
はい、私もその中高年女性の範疇にもれなく該当します(笑)

さて、韓流アイドルのファンによるブログやツイ、掲示板などでは、よく「オバペン」「オバサン」「BBA(ババァ)」といった単語が使われています。
これらの単語は中高年女性を揶揄したり蔑視する呼称として使われていますけど、若年層が中高年女性に対して用いるだけでなく、当の中高年女性が自分たちのことを指して積極的に名乗っている場合もあります。
いえ、「積極的に」というよりは「自虐的に」名乗ると表現した方が正確でしょうか(^_^;)
(男性の場合、自分が若かろうが年を取っていようが、中高年女性を「オバサン」呼ばわりし揶揄する傾向が見られます。これこそ「ミソジニー(女性嫌悪・女性蔑視)」の象徴的態度なのかもしれません)

中高年女性は、世間が「年甲斐もなく若い男性アイドルに夢中になっている自分」をどのように扱うのか理解しているからこそ、防衛的になって自らに蔑視語を用いてるように感じられます。
世間一般には、中高年女性が年若い男性にはしゃぎ、貢ぐ状態を「みっともない」とか「はしたない」とか「色狂い」(笑)として受け止める傾向がありますよね?
若い女性が男性アイドルに夢中になっても、それは疑似恋愛として肯定的に受け止められますが、中高年女性のそれは「浅ましい」ものとして扱われがちです。
ここに「女性が若いか若くないか」によるダブルスタンダード(二重基準)がありますよね。
(中高年女性が若い男性アイドルを資金力にまかせて、いいようにしているという批判も含まれているとは思いますが、若い女性も同様にお金を使って男性アイドルを購入しています)

また中高年女性をターゲットにした女性雑誌では、「脱オバサン化」や「アンチエイジング」をテーマにした特集が頻繁に組まれます。
女性はいくつになっても「明るく、爽やかで清潔感があって、キレイで、鈍臭くない(機敏性がある)」ことが求められる風潮がありませんか?

そうです。
世間一般的には、ズバリ女の価値は「若さと容姿」ですよね(^_^;)

女の価値は若くて美しいことだと内面化している女性ほど、容姿や体型の維持に日々努力し、「オバサン」や「BBA」といった言葉に敏感になるかもしれませんし、そのような蔑視語が当てがわれたとき、自分が全否定されたような感覚に陥るかもしれません。

韓流アイドルの中高年女性ファンが自らを「オバペン」「オバサン」「BBA」と名乗るのは、他者から自分を全否定される前に、自分で自分のことを否定することでプライド(自尊心)を守っているのでしょうか?
誰に指摘されるでもなく、自らを「オバサン」「BBA」と宣言することで防波堤を築き、弱々しくおびえている自分をひた隠しながら、その防波堤の中で息巻いているだけなのかもしれません(^_^;)

果たして、女の価値は「若さと美しさ」にあるのでしょうか?

「オバサン」と呼ばれたときに不快感や違和感を覚えるのは、「オバサン」には「図々しい/垢抜けない/みっともない」などのマイナスイメージが付与されているからです。
自分が若い頃に「女の価値は若くて美しいことにある」と思い、それを強く内面化している場合、年を重ねるにつれて自分が付与したマイナスイメージの「オバサン」に移行していくことは非常に耐え難く、苦痛をもたらすことでしょう。
だから、必死で「オバサン」になることに抵抗するのです。
「オバペン」や「BBAペン」を自称して防波堤を築きながらも、心のうちでは「自分はそうではない」という確証を得たくて仕方がないのかもしれません。
韓流男性アイドルとの疑似恋愛を妄想し、ファンコミュニティの中で「彼と私」の物語を無邪気に語り合い、互いに「いいね!」を押し合う作業は、中高年女性の中にある「少女性/乙女性」へのこだわりと回帰願望のあらわれであり、成熟した女性に価値を見出さない社会一般を反映しているのかもしれません。

そう、日本社会は成熟した女に価値を見出しません。
社会で働く中高年女性は仕事の内容でスキルを高く評価されたとしても、見た目が野暮ったく「オバサン」的であるだけで、その人物の印象は半減しませんか?

また、ジェンダー平等が叫ばれている今日であっても、家庭を切り盛りし、家族のケアをする役割は女性により多く割り当てられてます。
家事や子育て、介護などのケアワークは人の生命を支える基本的な営みであり、安らぎとエネルギー再生産を担っているにもかかわらず、「女なら誰にでもできること」として社会的評価はさほどでもありません。
ときには髪を振り乱し、顔にシワを刻み、一心不乱に家族のケアをしている女性を気の毒に思い、同情の目で見ながらも、「ああはなりなくない」と忌避する心理がありませんか?
私には恥ずかしながらあります(^_^;)

なぜか女性は男性に比べて「若々しさと美しさ」を強く要求されますし、女性自身も「若々しさと美しさ」を維持することが他人から承認される術だと思いがちですよね。

誰が女の価値は「若さと美しさ」にあると決めたのでしょうか?
男?
男が決めたのかしらん?

そうそう、面白い現象があります。
韓流アイドルのファンコミュニティの中には、韓流アイドルの若さと容姿に過剰反応する傾向が見られます。
「歌やダンスの実力はあるけど、ルックスがあれじゃあ…」
「あの韓流アイドル、もういい年だよね。オワコンじゃないの?」
「若さとキレイさ/カッコよさが最大条件でしょ」
「あのアイドルは顔しか価値がないよね」

確かに、世界中どこのアイドルも、その商品価値は「若さと容姿」に重きが置かれているため、しごく当然の反応なんですが、近年のジャニーズタレントの中高年化とそれを受け入れるファンとの関係性を観察し比較してみると、やはり韓流アイドルのファン(とりわけ中高年女性)の方が「若さと容姿の衰え」に対してシビアに反応している感じがします。←私の思い込みかもしれませんが(^_^;)

「女の価値は若くて美しいことだ」というイデオロギー(笑)を強く吹き込まれてきた女性ほど、韓流男性アイドルに「若さと美しさ」を厳しく要求し、彼らの「若さと美しさ」に憧れ、同一化して自分の心を潤しているとも推測できます。

日本の女は、自分たちが男からされてきたことを韓流男性アイドルに対して繰り返している(やり返している)のでしょうか?
韓流アイドルのファンを観察していると、一部のファンの中には「韓流アイドルを侮蔑しながら愛している」といった状態を見て取れなくもありません(^_^;)


[参考文献]
田中ひかる『「オバサン」はなぜ嫌われるのか」集英社新書、2011年