韓流アイドルへの自己愛憤怒と癒し

ファンは好きな韓流アイドルのことを、まるで自分の延長線上にあり、一部分であるかのように感じるときがあります。

例えば、コンサート中にアイドルに向かって手を振ったとき、アイドルがこちらを見てくれたとしましょう。
「あっ、目があった!」とあなたは思うかもしれません。
しかし、アイドルがあなたのことを本当に見つめていて認識しているかどうかは定かではありませんよね(^_^;)
また、コンサートの最後にアイドルが涙を流したとします。
それを見たファンは、アイドルがファンの情熱的で献身的な応援に感動してくれて泣いていると思うかもしれません。
確かにファンからの深い愛情に感動している部分もあるかもしれませんが、アイドルは自己の達成感や充実感に突き上げられて泣いているのかもしれません。
実際、アイドルの涙には、ファンからは想像できないほど多くの複雑な理由が絡んでいるものと思われます。

このようにファンは「自分の心とアイドルの心の区別があいまい」になっていて、アイドルの行動や感情を一方的に解釈することがあります。
その解釈によって自分の心が元気づけられたり、自分が肯定された(承認された)と感じたり、アイドルと同じ気持ちを分かち合えたと思ったりしたとき、アイドルはファンにとって「自己対象」になっています。

「自己対象」とは、他者を自分の一部分であるかのように感じ、自分を肯定してくれたり、共感してくれたり、大切にしてくれる相手のことです。
(「自己対象」の具体例として、親や親友、恋人や伴侶、子供、アイドル、ペットなどがあげられます)
この「自己対象」から思いもかけず批判されたり忠告されると、人間は傷つく場合があります。
もちろん傷つかない人もいれば、傷つきが大きい人もいます。
この違いは何でしょう?

実は心理学や精神分析では、自己愛が強い人ほど傷つきやすいと言われています。

自己愛というのは、「大切に扱われたい」とか「自分だけは特別」とか「自分が中心でありたい」とかいう気持ちです。
誰もがこの自己愛を大なり小なり持ってますよね。

では、自己愛の傷つきから生じる反応について書いていきたいと思います。

韓流アイドルの振る舞いが自分の期待に沿わなかったり、自分の気持ちを満足させてくれないと感じたとき、激しく怒り出して、SNS上で韓流アイドルに向かって辛辣で侮蔑的な言葉を吐くファンが一部にいますよね(^_^;)
これは、「自己対象」になっていたアイドルが自分の期待するような言動を見せてくれないことで、自分が大切にされていないと感じたり、自分が否定されたと感じてしまい、「恥をかかされた」とか「バカにされた」とか「見下された」とかいう屈辱感のあらわれだと思います。
つまり、強い自己愛(「自分だけは特別」「大切に扱われたい」といった気持ち)を持っているファンほど、自分の自己愛が傷ついたとき、屈辱感や怒りの感情でいっぱいになるのです。

屈辱感は激しい怒りを呼び起こします。
その怒りを抑制できないままSNS上で爆発させているのがアンチファンではないでしょうか?
(アンチファンの自己愛は肥大化しているのかもしれません^_^;)


自己対象、つまり自分を肯定してくれたり大切にしてくれる相手が原因となって作り出される激しい怒りのことを「自己愛憤怒(Narcissistic rage)」と呼びます。

韓流アイドルによって自己愛を傷つけられたと感じたファンは激しく怒り(自己愛憤怒)、辛辣な言葉で韓流アイドルのことを語り、非難し、罵倒するのは自我を守るためのメカニズムだと思われます。
(アイドルにはそのような意図がなくても)ファンは「自分が見下された/バカにされた」と感じて、「自分は何ら特別な存在ではない」という現実を突きつけられたとき、アイドルを見下すことで「見下された自分」を打ち消そうと必死なのかもしれません。
「自分は特別な存在」であるというイメージ(誇大化した自己愛)を守り抜くために、アイドルにありとあらゆる理由をつけて見下しているように思われます。

ファンは思い通りになるはずの韓流アイドルが自分の思い通りにならなかったことで、自分はたいして特別でもなく魅力的でもなく力を持たない存在であることを思い知り、「こんなに耐え難いのは韓流アイドルのせいだ」として、自分の誇大化した 感覚(全能感)を取り戻そうと韓流アイドルを罵倒しているように見えます。
韓流アイドルを痛めつけて、彼らを身動きできない状態にし、思い通りにできる道具にして、自分の心を癒しているのでしょうか?

そもそも日本の女性ファンの中に、韓流アイドルを「思い通りになるはず/思い通りになって当然」と意識している人が幾ばくかいて、そういった現実にかつてのコロニアリズム(植民地主義)を重ねてしまうのは私だけかしら?


[参考文献]
*ラリー・D・ローゼン、ナンシー・A・チーバー、L・マーク・キャリアー 『毒になるテクノロジー』 児島 修 訳、東洋経済新報社、2012年

香山リカ 『劣化する日本人』 ベスト新書、2014年

岡田尊司 『パーソナリティ障害』 PHP新書、2004年

和田秀樹 『<自己愛>と<依存>の精神分析PHP新書、2002年